英・EU離脱後:TPP参加の用意・メイ首相!

メイ英首相は10月10日の議会で、英国は欧州連合(EU)離脱後、日本など11カ国による環太平洋連携協定(TPP11)に参加する用意があると表明した。

離脱に伴って予想される英経済への悪影響を軽減させるのが狙い。
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安倍晋三首相は8日付の英紙フィナンシャル・タイムズとのインタビューで、英国のTPP参加に歓迎の意向を示した。メイ首相はこれを受け「とてもうれしい。われわれはまさに(参加の)用意ができている」と応じた。
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フォックス英国際貿易相も8月、時事通信のインタビューで、TPP参加に意欲を示していた。英国は2019年3月にEUを離脱する予定。
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TPPは12月30日発効・6カ国が批准
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来年3月30日に迫った英国のEU離脱に向けて、同国の環太平洋パートナーシップ(TPP、厳密にはCPTPP、いわゆるTPP11)への参加をめぐる議論が注目を集めている。メイ首相以下、関係閣僚やその他英政府高官からもTPP参加への関心がたびたび表明されている。
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これに対して日本では、英国のTPP参加を基本的に歓迎する声が多く聞かれる。今年10月に英Financial Times(FT)紙とのインタビューに応じた安倍晋三首相は、英国のTPP参加を「両腕を広げて」歓迎すると述べた。
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英国のTPP参加は、EU離脱後の同国が内向きにならいことの象徴になるかもしれない。外に開かれた通商政策やアジアへの積極的な関与の継続は、日本が望むものでもあり、そうした方向を歓迎する外交的メッセージの発出は、日本の国益に合致するといえる。日英関係の強化にも資するだろう。
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しかし、この問題はそれほど単純ではない。EU離脱後の英国がTPPに参加できるようになるか否か、すなわちEU離脱の形態自体が日本に大きな影響を及ぼすからである。
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なお、EU離脱問題をめぐる英国政治の極度の不透明化により、ここでの議論の前提も今後大きく影響を受ける可能性がある。しかし、英国のEU離脱という基本線が変わらず、また、いわゆる「合意なしの離脱」でなく、EUと英国との間で何らかの離脱協定が締結されるとの前提にたつ限り、TPP参加問題をめぐる論点の構図は変化しないだろう。
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英国がTPPに参加できるのは、EU離脱後の英国が包括的なFTA(自由貿易協定)を締結できるほどにEU関税同盟・単一市場から独立する場合のみだという事実である。
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英国内がEUからの離脱の形態について激しく分裂している状況を踏まえれば、日本のような第三国の政府が「ハード」や「ソフト」に直接言及することは得策ではない。そのため、冒頭で触れたFT紙とのインタビューでも安倍首相は、「いわゆる無秩序な離脱」を避けて欲しいとの言葉遣いにとどめている。
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EUとの統合度合いをより限定し、離脱後の英国の自由度を増すべきだとの考え方が「ハード離脱」である。EUの共通通商政策・関税同盟から明確に離脱すれば、TPPを含め、世界の国々と自由にFTAを締結できるようになる。他方で、EU市場へのアクセスには制限が加わり、英国経済や英国に進出している企業にとっての損失は大きくなる。
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英国は「ハード離脱」になった場合のみ、TPPに参加することができるのだが、それは日本の利益とは異なる。英EU離脱交渉に関する日本の利益と、英国のTPP参加が可能になる状況は相反するのである。
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英国のTPP参加問題を議論する際のさらなる注意点は、EU離脱の形態に関して極めて深刻な対立が生じている英国内政の現状である。英国内の分裂状況が深刻である結果、英国のTPP参加問題に関する日本からのメッセージは、発言者の意図に関係なく、英国国内の文脈で使われる、さらには誤用・悪用される懸念が高いのである。
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先に触れた安倍首相のインタビューも、全体のなかでのTPP問題への言及はごくわずかだったが、「英国は両腕を広げてTPPに歓迎される、と安倍首相」との見出しが踊った。英国のTPP参加を歓迎するとのメッセージは、意図に反して、英国内の「ハード離脱」、さらには離脱交渉決裂も辞さずという「合意なしの離脱」派をも勢いづかせる効果を有してしまいかねないのである。
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