中国の不良債権:公式統計10倍・190兆円! 

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中国の不良債権の拡大に警鐘を鳴らすデータが、ここ最近、相次いで公表されている。内閣府が8月まとめた報告書「世界経済の潮流」は、不良債権に計上される恐れのある銀行の要注意債権の残高が、2年で倍増したと指摘。民間シンクタンク大手の日本総合研究所が発表した中国の推定不良債権が、公式統計の10倍に上るという試算リポートは、さらに大きな衝撃を市場関係者らに与えた。中国に待ち受けるのは「金融危機」か、はたまた大胆な構造改革路線による不良債権問題の解決か。政権内部では経済政策の路線対立も根深く、先行きはまったく読めない状況だ。
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「(中国の)景気が減速する中、要注意債権の不良債権化に注意が必要だ」。内閣府は「世界経済の潮流」の中で、こう警鐘を鳴らした。
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中国では、債権を「正常」「関注」「次級」「可疑」「損失」の5つに分類して、最後の3つを、不良債権としている。
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内閣府が要注意債権と呼ぶのは、不良債権のワンランク前の「関注」債権で、2016年4~6月期の残高は3兆2000億元(約48兆円)と、2年前の約2倍にまで増えたという。
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また内閣府は報告書の中で、今年に入り、中国の国有企業の固定資産投資が急増しているとも指摘。リーマン・ショックに対する経済対策を機に悪化した、過剰設備問題のリスクに対する警戒も呼びかけた。
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一方、日本総研がまとめたのは、中国の金融機関が抱える潜在的な不良債権の残高が、15年末で12兆5000億元(約190兆円)に達するとのリポートだ。中国政府は、同時点での不良債権残高を1兆2744億元(約19兆円)としており、試算結果は、ほぼ10倍に達する規模だ。
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同社は、広義の営業キャッシュフローが支払い利息を下回っている企業の借入金を不良債権と定義し、中国の上場企業2327社の15年の財務データを分析。このうち223社が、「潜在的に危険な企業」にあたるとした。借入金ベースの比率では全体の8.6%に上る。
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この比率を、公式統計に載らない「シャドーバンキング(影の銀行)」による融資や、
非上場企業向けの融資を含んだ中国全体の貸出額にあてはめて、不良債権残高を推計したという。
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リポートをまとめた関辰一副主任研究員は「不良債権の認定基準が甘いことなどを踏まえると、実際の不良債権は公式統計を大きく上回る規模と考えられる」と指摘。
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不良債権が膨らんだ理由について、「中国経済の高成長の終焉にともない、製造業や採掘業、不動産業で、過剰債務・過剰投資の問題が深刻化し、不良債権比率が上昇している」としている。
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こうした状況は、今後、中国経済にどのような影響を与えるのだろうか。
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最悪のシナリオは、経営を圧迫された金融機関の破綻を機に、金融危機が引き起こされることだ。バブル崩壊後の日本でも1990年代後半、金融機関の破綻が相次ぎ、貸し渋りや貸しはがしが起きたことで企業の破綻が相次いだ。中国でも、同様の事態が起き、中国の景気が大きく後退する恐れがある。
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ただ、日本という“反面教師”もいるだけに、中国は同じ道をたどらないのでは、と指摘する声も多い。その場合、「構造改革」によって不良債権問題を解決する道が模索される可能性がある。
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「構造改革」の場合、政府は金融機関に公的資金を投入する一方、金融機関はリストラを迫られ、景気は一時的に後退することになる。中国の政治体制は日本と違うため、日本では遅れた金融機関への公的資金投入が、スピーディーに進むこともありうる。
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ただ、政府内には、構造改革路線を重視する習近平政権指導部と、景気刺激を重んじて、高度経済成長路線への回帰を求める江沢民元国家主席ら「守旧派」との間の対立があるとされる。この対立が根深ければ、構造改革路線は、そう簡単にはいかない。
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結局、金融機関の寿命をダラダラと延ばしつつ、景気回復で不良債権問題の解決を待つ「先延ばし策」がとられるかもしれないが、中国の景気減速がささやかれる中、手をこまねくだけなら、傷口はますます広がりかねない。
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14億人の人口を抱え、世界最大の消費市場に膨張した中国の経済が世界経済に及ぼす影響は巨大だ。日本にとっても、進出企業の多さや対中輸出の巨額さを踏まえると、インパクトはとてつもなく大きい。
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世界経済にとって、中国の不良債権問題は、いつ爆発する分からない「時限爆弾」のようなものだといえそうだ。
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週刊ダイヤモンド 9月10日号より

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