米中貿易戦争:2020年の大統領選まで我慢できるか!

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習近平が突然「喧嘩腰」・米国激怒!
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米中貿易戦争、トランプ大統領も習近平主席も「妥協しようという気持ちがない」という見方が出てきた。それは、習近平がわざわざ劉鶴副首相をワシントンに送りながら、出た答えは「物別れで終わった」と報道では言われているが、交渉に行ったのではなく、中国の態度を明確に伝えに行った。言い換えれば、妥協するつもりはないよと言いに出かけたということだ。
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劉鶴副首相率いる中国側の交渉チームがワシントンで交渉したが妥結に至らず、米国は追加関税、中国も報復関税を発表。協議後「劉鶴副首相」は記者会見で、語気強く中国の立場を主張した。だが、交渉は継続するという。衝突の一歩手間で矛を収めた。
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5月では11回ものハイレベル協議で米中間の貿易問題は一応の妥結に至り、6月の米中首脳会談で合意文書を発表し、米中貿易戦争はいったん妥結収束という見通しが流れていた。それが5月にはいって「ご破産に近いちゃぶ台返し」になったのは、習近平の決断によるものらしい。習近平はこの決断のすべての「責任」を引き受ける覚悟のようだ。
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第11回目の米中通商協議ハイレベル協議に劉鶴が出発する直前の5月5日、トランプはツイッターで「米国は2000億ドル分の中国製輸入品に対して今週金曜(10日)から、関税を現行の10%から25%に引き上げる」と宣言。さらに「現在無関税の3250億ドル分の輸入品についても間もなく、25%の関税をかける」と発信した。この発言に、一時、予定されていた劉鶴チームの訪米がキャンセルされるのではないか、という憶測も流れた。結局、劉鶴らは9~10日の日程で訪米したのだが、ほとんど話し合いもせず、トランプとも会わず、物別れのまま帰国の途についた。
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サウスチャイナ・モーニング・ポストなどは、トランプがこうした態度に出たのは、中国側の譲歩が足りないことに忍耐が切れたからであり、譲歩を拒んだのは習近平自身にすべて責任があると報じた。匿名の消息筋の話として「交渉チーム(劉鶴ら)は、次のハイレベル協議で、(妥結のために)習近平により多くの譲歩をするよう承諾を求めたが、習近平はこうした提案を拒否した」「責任は全部私(習近平)が負う」とまで言ったという。この習近平の断固とした姿勢を受けて、中国側交渉チームは、ワシントンに提案するつもりだった「最後の妥結案」を直前になって強硬なものに変更した。これにトランプのみならず、穏健派のムニューシンまで激怒し、今回の関税引きにつながった、という話だ。ならば、習近平に貿易戦争を終結させる意志はないということだろうか。
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ではなぜ、劉鶴をあえてワシントンに送ったのか。
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ホワイトハウスの発表によれば、トランプは習近平から「美しい手紙」を受け取ったそうだ。その中には習近平の「対話継続」の要望がしたためられていたという。手紙には、依然、協議が妥結することを望むとあり、「我々はともに努力し、これらのことを完成させましょう」とあったそうである。
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トランプはこれに対し、次のように発言している。
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「中国側は、交渉を最初からやり直したい、といい、すでに妥結に至っていた“知財権窃盗”の問題など多くの内容について撤回を要求してきた。こんなことはあり得ない」
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「中国側が交渉のテーブルに戻りたいなら、何ができるのか見せてもらおう」
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「関税引き上げは我々の非常にいい代替案だ」
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これに対する中国側の立場だが、劉鶴がワシントンを離れる前の記者会見でこんな発言をしている。新華社の報道をそのまま引用しよう。
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「重大な原則の問題において中国側は決して譲歩しない」「目下、双方は多くの面で重要な共通認識に至っているが、中国側の3つの核心的な関心事は必ず解決されなければならない。
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①つ目は、全ての追加関税の撤廃だ。関税は双方の貿易紛争の起点であり、協議が合意に達するためには、追加関税を全て撤廃しなければならない。
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②つ目は、貿易調達のデータが実際の状況に合致しなければならないことで、双方はアルゼンチンで既に貿易調達の数字について共通認識を形成しており、恣意的に変更すべきではない。
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③つ目は協議文書のバランスを改善させること。どの国にも自らの尊厳があり、協議文書のバランスを必ず図らなければならない。今なお議論すべき肝心な問題がいくつか存在する。昨年(2018年)以降、双方の交渉が何度か繰り返され、多少の曲折があったが、これはいずれも正常なものだった。双方の交渉が進行する過程で、恣意的に“後退した”と非難するのは無責任だ」
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「中国国内市場の需要は巨大で、供給側構造改革の推進が製品と企業の競争力の全面的な向上をもたらし、財政と金融政策の余地はまだ十分あり、中国経済の見通しは非常に楽観的だ。大国が発展する過程で曲折が生じるのは良いことで、われわれの能力を検証することができる」
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このような自信に満ちた強気の発言は、劉鶴にしては珍しく、明らかに“習近平節”だった。
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つまり、習近平は、米国との貿易戦争、受け立とうじゃないか、と改めて宣戦布告した、といえる。これは、3月の全人代までの空気感と全く違う。3月までは米中対立をこれ以上エスカレートさせるのは得策ではない、という共通認識があったと思われる。だが、習近平の全人代での不満そうな様子をみれば、習近平自身は納得していなかっただろう。貿易戦争における中国側の妥協方針は李克強主導だとみられている。
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劉鶴をワシントンにとりあえず派遣したのは、中国としては米国との話し合いを継続させる姿勢はとりあえず見せて、協議が妥結にこぎつけなかったのは米国側の無体な要求のせい、ということを対外的にアピールするためだったのだろう。
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では貿易戦争妥結寸前、という段階で習近平が「俺が責任をもつ」といってちゃぶ台返しを行ったその背景に何があるのか。李克強派が習近平の強気に押し切られたとしたら、その要因は何か。
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1つは台湾総統選との関係性だ。米中新冷戦構造という枠組みにおいて、米中の“戦争”は貿易戦争以外にいくつかある。華為(ファーウェイ)問題を中心とする“通信覇権戦争”、それと関連しての「一帯一路」「中国製造2025」戦略の阻止、そして最も中国が神経をとがらせているのが“台湾問題”だ。
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台湾統一は足元が不安定な習近平政権にとって個人独裁政権を確立させるための最強カード。その実現が、郭台銘の国民党からの出馬表明によって視野に入ってきた。もちろん国民党内では抵抗感が強く、実際に郭台銘が総統候補となるかはまだわからないが、仮に総統候補になれば、勝つ可能性が強く、そうなれば、中台統一はもはや時間の問題だ。
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貿易戦争で中国側が全面的妥協を検討していたのは、そのバーターとして米国に台湾との関係を変えないでもらおうという狙いがあったからだ。だが中国に平和統一に向けたシナリオが具体的に見え出した今、米国にはそんなバーターに応じる余裕はない。台湾旅行法、国防授権法2019、アジア再保証イニシアチブ法に続き、台湾への武官赴任を認める「2019年台湾保障法」を議会で可決した。となると、中国にすれば、台湾のために貿易交渉で米国に屈辱的な妥協にこれ以上甘んじる必要性はない。妥協しても米国は台湾に関しては接近をやめないのだから。
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もう1つの可能性は、劉鶴の発言からも見て取れるように、貿易戦争が関税引き上げ合戦になった場合、「中国経済の見通しの方が楽観的」と考えて、突っ張れば米国の方が折れてくるとの自信を持っている可能性だ。
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中国経済に関していえば、第1四半期の数字は予想していたよりも良かった。これは李克強主導の市場開放サインや減税策に海外投資家が好感したせいだろうし、李克強の対米融和路線を強硬路線に戻せば、中国経済は失速する可能性がある。
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さらに、もう1つの背景として、大統領選挙の民主党候補にジョー・バイデンがなりそうだ、ということもあるかもしれない。バイデンは中国が長らく時間をかけて利権づけにしたパンダハガー(「パンダを抱く人」=親中派)政治家であり、実際彼は「中国は我々のランチを食べ尽くすことができるのか?」と語り、中国脅威論に与しない姿勢を示している。来年の秋にバイデンが大統領になるなら、習近平は妥協の必要がない。中国は今しばらく忍耐すればいいだけだ。トランプの対中姿勢を不合理なほど過激なものにさせた方が、企業や一般家庭の受ける経済上のマイナス影響が大きくなり、トランプの支持率が落ちるかもしれない。次の大統領選で民主党政権への転換の可能性はより大きくなるかもしれない。
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習近平が指導したとされる対米強硬策が失敗した時、退陣という場面も出てくるかもしれない。6月に大阪で開催されるG20、米中首脳会談が行われバランスを取った妥協がされるのか、どちらかが強行のままで会談すらできないのか、間もなく判る。
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