バブル:潮の満ち引きのように何回も来ている!

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バブルは別の顔をしてやってくる!
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知識に精通した人だけがバブルの利益を得ている!
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次にバブルがやってくるのはどの業界か、バブルが起こるのはどんな条件下か。日銀の超金融緩和はバブルを呼ぶのか――。エコノミストの熊野英生氏が予測する。
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「80年代と同じバブルは起こりますか?」と問われると、NOと言わざるを得ない。80年代バブルは、全面的なユーフォリア(陶酔)であり、企業も庶民も踊った。もう庶民が踊るバブルは来ない。
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しかし、バブルは別の顔をしてやってくる。この法則は今も生きている。ビットコインやタワーマンションのブームのように、マニアックな分野では何度でもバブルは起きている。かつてインテルの経営者は、「パラノイアだけが生き残る」と名言を吐いた。ひどくこだわりの強い人間だけがIT分野の競争を生き抜ける。

17年現在のバブル的兆候も、パラノイアの如く、ごく一部の知識に精通した人々だけがバブルの利益を謳歌できている。
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バブルの3条件とは
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バブルが過熱するときの環境はいつも同じだ。
(1)過剰流動性、
(2)リスクテイカー、
(3)過度の楽観、
この3条件がピタッと揃った時、バブルの奔流が湧き上がる。
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個別にみていくと、過剰流動性は日銀の超金融緩和の所産だ。黒田東彦総裁就任以降、日銀は危険なほど副作用を無視した緩和を行っている。消費者物価2%の上昇率を目標にして、長期国債を買い尽くすような量的緩和である。16年9月までは資金供給量を量的に拡大させる政策だった。16年10月以降は、イールドカーブ・コントロールといって、短期金利はマイナス金利、長期金利は0.1%(ゼロ%程度)を事実上の上限にする市場管理体制に移行した。この体制下では、超低金利だけでなく、金利変動を小さくする操作が行われる。金利収入や変動時の利益で商売することが金融機関にできなくなり、巨大マネーを国債市場から追い出す焦土作戦のような政策である。銀行は、貸出増加の圧力にさらされ、不動産や個人の住宅向けに積極貸出をする。
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個人は相続税対策として、アパート・貸家の経営に傾斜していく。都市には無数の空家・空室があるのに、次々に新規供給が行われている。20~30年後に不良債権が山積したとき、誰が責任をとるのかと不安でならない。また、インカムゲインがなくなることも恐るべきことだ。金やビットコインには利息がつかないから、預金・国債がゼロ金利になると無差別な資金流入が起きやすい。だから、利息がつかない資産、例えば更地を寝かせておくコスト(機会費用)をあまり考えなくてもよくなり、そうした資産取引でサヤ抜きが起こりやすくなる。
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近未来のバブルは海外からやってくる。
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現在の金融市場の風景は、資産バブルとは180度反対の「流動性の罠」の色彩もある。皆が安全資産をいくらでも持ちたがり、金利がゼロ%から離れない。これはイールド(利回り)の消滅と言われる。しかし逆にリスクテイカーにとっては、皆が弱気の時ほどリスク資産を割安に買うチャンスと映る。流動性の罠は、バブルの原因にもつながっていく。
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近未来の日本で起こるバブル現象においては、海外から超強気派が来るのではないかとみている。海外バブルで懐が温かくなり、投機を仕掛ける資産の余力が大きい投資家、企業である。そのとき、多くの日本人がフォロワーになっても何も不思議はない。
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実は、80年代バブルもそうだった。米国の市場開放圧力により、海外金融機関の在日支店が多数開設された。87年に日本に所在する外資系企業の8割が東京に立地し、81~85年に東京で竣工したビルの24%を外資系が占めた。当時、外国人向けマンションは月100万円超が珍しくなく、都心一等地の住宅価格をせり上げた。80年代バブルの前史を調べると、土地神話の前に国際化で東京が生まれ変わるという熱気が未来を極端に強気にみせたという経緯が浮かび上がってくる。
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今、東京都心の地価は、06~07年のミニバブルの上昇を追いかけるように上昇している。背景にある東京都心の再開発は、五輪後に完成するものも多い。そこには五輪を跳躍台にして、海外から進出企業や観光客を呼び込もうという構想がある。現在でも、インバウンド向けの施設が圧倒的に足りないという声は大きい。

17年の基準地価は、京都と大阪の商業地がインバウンド関連で急上昇している。
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もうひとつバブルの前提は、ブレーキがないことである。80年代バブルを潰したのは銀行に対する総量規制だ。伸びようとする信用に網をかぶせる政策は劇的に効いた。手前では日銀は低金利を動かせなかった。日銀がブレーキを踏まなかったことが投機を許し、その後で総量規制が急ブレーキを踏んでバブルは崩壊した。
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今度は、金利上昇が財政運営を制約するという意識が、巨大緩和の修正を止めるに違いない。ここ数年、政府がリフレを信奉する人物を選んで日銀政策委員に送り込んでいる。これも、日銀がバブル潰しに動きにくい素地となる。
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もともとリフレ派は、90年代に銀行が不良債権処理などしなくても、企業の過剰債務は資産バブルを起こせば自然になくなると主張していた。それが金融不安後のデフレに対して、人為的に物価を中央銀行が操作できると言い始めた。そして財政問題が深刻化すると、「消費税率など上げなくてもよい、景気を良くすれば税収増で何とかなる」と主張した。不良債権(企業の過剰債務)を資産バブルで消す発想が、政府債務を次のバブルで消そうという発想に転換したのである。
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今後注意すべきは、バブル的な兆候に対して、「これはバブルではない」と発言する人々がメディアに現れるときである。この発言にはバブルにブレーキを踏んでほしくないという心理が働いている。また、財政再建などしなくてもよいという主張も危険だ。もう日本の財政は後戻りできない位に深刻だが、さらに財政出動を願う人がいる。そうなれば、最後はバブルで政府債務を解消しようという荒技の選択に日本は追い込まれてゆく。
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