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背に腹は代えられない経済投資!
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膨らむ過剰債務・解消に逆行!
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中国の「鉄道」頼みが復活した。米国との貿易摩擦の激化で経済の減速懸念が強まり、公共投資の拡大に転換。その柱とみられるのが鉄道の建設投資なのだ。だが、そこには中国のみならず世界経済を揺るがしかねない危うさが秘められている。
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「中西部のインフラ建設を加速する」。7月26日、チベット自治区の鉄道建設現場を訪れた中国の李克強首相は、こう強調し、投資を拡大して沿海部との経済格差を縮めるべきだとの認識を示した。
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これに先立つ同月23日の国務院(政府)常務会議でも、李氏は内需拡大策としてインフラ投資の拡大を指示していた。
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さらに習近平総書記(国家主席)が同月31日に主宰した中国共産党の中央政治局会議は、今年下期に「積極的な財政政策」を堅持するとした上で、内需拡大と構造調整でより大きな役割を発揮しなければならないと指摘した。減税で企業の負担を軽減するほか、引き締め方針によって落ち込んだインフラ投資を再び活性化させるというのだ。
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その象徴ともいえるのが鉄道の建設投資だ。中国政府は、ここにきて2018年の同投資を当初計画から1割程度積み増し約8000億元(約13兆円)に上方修正したという。
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SMBC日興証券の肖敏捷シニアエコノミストのリポートによると、中国では08年のリーマン・ショックを契機に、鉄道建設がインフラ整備の牽引役に躍り出た。07年に2581億元にとどまっていた鉄道分野の固定資産投資は、10年に8428億元まで急拡大。11年以降、景気回復に伴い減少したが、14年に8000億元の大台に回復した。ただ、16、17年は政府による投資の引き締めが強化され、前年比伸び率では2年連続で前年割れとなった。
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18年の当初計画も7320億元と前年比8.6%減となっていたが、上方修正で再び拡大局面に入ったとの見方は強い。事実、政府は、このほど吉林省の地下鉄建設計画を認可。新線の認可は約1年ぶりだという。
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これに対し、肖氏は「即効性のある景気刺激策として、鉄道投資という伝家の宝刀を抜くのはやむを得ないが、インフラ整備、とりわけ鉄道建設に頼り続けるかぎり、中国の内需拡大の持続性を疑問視せざるを得ない」と批判する。
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中国政府が鉄道などインフラ投資の拡大にかじを切ったのは、米国との間で激化する貿易摩擦が国内景気に与える影響に危機感を強めているからだ。
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中国国家発展改革委員会の叢亮報道官は8月15日の記者会見で、インフラ投資の拡大などで景気を下支えする方針を説明。貿易摩擦の影響があっても「われわれは十分に対応できる能力があり、年初に定めた経済目標を達成できる」と述べ、中国政府が18年通年で目指す経済成長率6.5%前後の達成に自信を示した。
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しかし、インフラ投資の拡大は、中国経済の「アキレス腱(けん)」とされる過剰債務問題を深刻化させる恐れがある。リーマン・ショック直後、中国政府は総額4兆元もの大型景気対策を打ち出し、各地ではインフラ投資が大盛況となった。だが、銀行融資などの「借金頼み」だったため、巨額の債務が積み上がった。国際決済銀行(BIS )によると中国の金融部門を除く総債務の国内総生産(GDP)比は、08年の141%から17年には255%にまで拡大している。
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政府は、過剰債務の解消に向けた構造改革を重視する姿勢に転じ
、インフラ投資を抑制。中国国家統計局が8月14日に発表した1~7月の固定資産投資は前年同期比5.5%増で、伸び率は1~6月と比べ0.5ポイント縮小し、記録が確認できる1998年以降で最低となった。鉄道投資が抑えられたのも、こうした流れに沿うものだった。
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それが、構造改革よりも目先の景気安定を優先する姿勢に戻らざるを得なくなったのは、貿易戦争の激化で頼みの外需に不安が漂い始めた影響が大きい。だが、「負債率が比較的高い」(肖氏)という鉄道投資などへの依存は、過剰債務の解消を放棄したとも映る。
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実際、中国財政省は8月14日、地方政府に地方債発行を加速するよう指示し、公共事業の拡大を促した。
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中国の過剰債務問題は、デフォルト(債務不履行)の拡大で金融システム不安に発展し、経済の急激な収縮を招く懸念がある。GDP世界第2位の中国経済の変調は、世界経済に大きな打撃を与えるのは確実だ。
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「鉄道頼み」は中国の窮状を浮き彫りにするが、日本にとっても対岸の火事でない。
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