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縮小へ・金融庁の厳格姿勢が販売見直し迫る!
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元本保証と言って販売していないか!
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ウォール街の銀行は、米テクノロジー企業シトリックス・システムズのレバレッジド・バイアウト(LBO)向けのファイナンス契約を投資家に売却したことに伴い、約6億ドル(約860億円)の損失を計上する方向だ。リスク資産が急激に調整する前の今年初めに約束した引き受けについて、ダメージを抑えようと数カ月にわたり取り組んできた。
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バンク・オブ・アメリカやクレディ・スイス・グループ、ゴールドマン・サックス・グループが率いる引き受け幹事団は総額150億ドルの債権パッケージのうち85億5000万ドル分を債券やローン市場を通じて売却する上で十分な需要を最終的に確保した。ただ投資家は、銀行団が1月にプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社ビスタ・エクイティ・パートナーズとエリオット・インベストメント・マネジメントに約束した水準を大幅に上回る利回りを要求した。
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債権パッケージ全体の売却を試みていれば、コストはさらに膨らみ、損失額は10億ドルを超えていた可能性が高い。逆に見れば、銀行団はバランスシート上のそうしたリスクのかなりの部分を恐らく長期間にわたって維持することになる。
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損失額はブルームバーグの算出と今回の案件に詳しい市場参加者の話に基づく。結果的に控え目な見積もりとなる可能性があり、最終的な損失は、当初の引き受け契約で銀行側が確保した柔軟性や最初に見込まれていた手数料の程度に左右される。
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BofAやクレディ・スイス、ゴールドマン・サックスの担当者はコメントを控えた。3行は金融機関など30社余りで構成する幹事団の一角だった。
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金融庁がデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ「仕組み債」と呼ばれる金融商品の個人への販売を巡り、金融機関に厳しい姿勢で臨んでいる。販売停止や勧誘の見直しを迫られる金融機関も出ており、4兆円前後で推移してきた市場の縮小は避けられない見通しだ。
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仕組み債は、相対的に高い利回りが設定される一方、通常の債券とは異なり満期時に元本で償還される可能性は必ずしも高くはなく、損失が膨らむリスクも抱える。
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金融庁はリスクの高い投資商品にもかかわらず、顧客への説明が十分でないと判断している。また、複数の関係者によると、金融庁は仕組み債の商品性を十分に理解していない個人投資家への販売を金融機関が行わないことを望んでいるという。
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金融庁の屋敷利紀審議官はブルームバーグの取材で「銀行は元本保証ではないことは説明しているとは思うが、どの程度リスクがあるか販売する本人も分かっていない可能性があり、仕組み債は非常に問題が多い商品」と指摘。「業界全体として自浄作用が働いていなかった」との認識も示した。顧客本位の業務運営に関する原則と合致した販売がなされているか検証する方針で、必要に応じて立ち入り検査も行う。
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販売繰り返す誘因が働きやすい特性
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典型的な仕組み債である個別株連動型の商品(他社株転換社債、EB債)について、金融庁が2019年4月に販売された856本をサンプルとして調査したところ、わずか3カ月で元本の8割を失った例もあった。
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金融庁ではEB債の実質コスト(元本と公正価値の差)は投資元本に対して5~6%程度と推定されるが、満期が0.6年程度と短く、実質コストを年率換算すると8?10%程度に達すると考えられると指摘。取扱金融機関にとっては短期間で収益を上げやすいため、償還済みの顧客には繰り返し販売する誘因が働きやすい商品だと分析している。
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金融庁の調べによると、2021年度の仕組み債の販売総額は4兆1500億円。ここ数年は4兆円前後で推移してきた。ジェフリーズ証券の伴英康アナリストは、仕組み債販売により金融機関は年間1500億円程度の収益を生み出していると推定。仕組み債販売に対する金融庁の厳しい姿勢によって、「大手金融機関の四半期業績の振れ幅が大きくなる可能性がある」とみている。
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三井住友銀行では、複雑な商品性や相場下落時に顧客資産に与える影響の大きさなどを鑑み、個人向けの仕組み債については7月から勧誘・販売を全面停止した。みずほ証券は、商品の特性を踏まえ限定的な取り扱いにするとして、9月13日から仕組み債の一部について取り扱いを停止。引き続き必要な見直しを行うという。
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SMBC日興証券も8月から積極的な勧誘を控えているほか、野村ホールディングスは、関係当局との対話も踏まえて顧客本位の業務運営の実現に資する改善を図っていくなどとしている。
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全国銀行協会の半沢淳一会長(三菱UFJ銀行頭取)は9月15日の会見で、仕組み債の複雑さを踏まえた上で「取扱銀行は想定顧客の明確化、分かりやすい情報提供が必要」と指摘。全国地方銀行協会の米本努会長(千葉銀行頭取)も会見で、仕組み債の取り扱いを継続する場合は、顧客本位の業務運営の原則の徹底がしっかりできているか検証することが必要だと語った。
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岸田文雄政権は「資産所得倍増計画」を掲げ、貯蓄から投資への流れを促している。一方、金融庁関係者は仕組み債が典型的であるように顧客の資産形成に役立たない商品が販売される傾向はまだしばしば見られると言及。金融庁の目的は顧客本位の考え方を金融機関に徹底させることだと説明した。
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金融庁の元職員で、現在はコンサルティング会社の日本資産運用基盤グループで主任研究員を務める長澤敏夫氏は、デリバティブ関連の専門用語を含めて仕組み債を本当に理解している個人にのみに販売すべきだとしながらも、そのような顧客は「かなり少ないのではないか」と付け加えた。
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