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なぜ、今になって「中国の脅威」を言い出したのか!
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北大西洋条約機構(NATO)が変わろうとしている。創設70年を記念するロンドンでの首脳会議では、中国の脅威を初めて討議。シルクロード経済圏構想「一帯一路」の下、欧州にも触手を伸ばす中国に警戒感が強まっている。
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「中国が間近に来ているという事実を考慮しなければならない」。NATOのストルテンベルグ事務総長は3日、「北極圏やアフリカで中国を見掛けるようになった。欧州のインフラに対する莫大(ばくだい)な投資やサイバー空間でも中国を目にしている」と述べ、NATOで中国の脅威を議論する意義を強調した。
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中国の習近平国家主席は11月、ギリシャを公式訪問し、同国最大のピレウス港への投資促進などを含む覚書に署名した。先進7カ国(G7)では、イタリアが3月に一帯一路推進に関する覚書を締結。これまでにポルトガルなど欧州連合(EU)加盟国の半数以上が一帯一路に関する協力文書に署名した。
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中国を戦略的競合国と位置付ける米国は、次世代通信規格「5G」網整備においても中国の進出を警戒する。NATO首脳会議でも、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)などの機器の排除を加盟国に求める見通しだ。
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トランプ米大統領は、NATOがロシアの脅威だけでなく、中国にも目を向けつつあることを歓迎。「NATOは変化している。このように柔軟なNATOのファンになった」と語り、対中国での連携に期待を示した。
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10月1日の国慶節の軍事パレードで、ど派手に軍事力を誇示すれば世界のどの国でも警戒するのは当然だ。2013年、一帯一路の遠大な構想推進のためAIIB(アジアインフラ投資銀行)が設立された。
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ドイツ政府は、「新シルクロード政策は着実に進んでいる。AIIBは1000億ドルを用意しているので、投資の資金は十分にある」として、もっと多くの国が参加するように呼びかけていた。ドイツの音頭でEU12ケ国もこぞって参加した。
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2017年、習氏はドイツのアンゲラ・メルケル首相と会談し、投資協定早期締結などを確認し、中独関係をこう表現した。「ドイツとの関係は、新たな段階に入ろうとしている」。第二次大戦当時からドイツは中国を経済的に支援していた。以来、ドイツは中国大好き、日本は嫌いと方針を変えていない。冷戦時代の真っ最中に中国へ兵器&関連機器を供給していたドイツが、ようやく中国の脅威を身近に感じ始めた。
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中国企業がドイツ企業の買収を拡大し、宇宙船や航空機の部品製造技術、原発など核関連分野のノウハウを持つ企業に狙いを定めていたからだ。ドイツでは2016年に産業用ロボット大手クーカが中国家電大手・美的集団に買収された後、技術流出懸念が深刻化した。クーカの技術は米軍の最新鋭戦闘機F-35の機体製造に使われており、身売りは同盟国を裏切る行為。クーカ買収を機に17年、欧州連合(EU)域外企業による買収規制を強化。これ以外に、IT・通信や電力・水道など「戦略的重要分野」にまで買収範囲が広げられていた。
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ドイツが舌なめずりする対中貿易は1750年代以来の国家的課題で、英国に対抗し1885年、清国直行汽船への補助金を支出、英国に次ぐ貿易量を達成した。英国やフランスに比し帝国主義色が薄いドイツに、清国が日清戦争(1894~95年)で日本の大脅威と化す東洋一の巨大堅艦《定遠/鎮遠》建造や、日露戦争(1904~05年)で日本軍におびただしい数の犠牲を強いた旅順要塞の造成を要請したのもこの時代だ。
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「中独合作」は今も存在する。中国化工集団公司がドイツの重機大手クラウス・マッファイを買収したときも両国の合作の成果だろう。マッファイは磁気浮上鉄道の業界で一目置かれる。日本も実用化を目指すリニア・モーターカーもそうだが、磁気浮上技術は空母のカタパルト技術につながる。中国の空母・遼寧の使用されている技術だ。
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通常、外国の投資は被投資国の経済成長を促し、雇用を創出する。しかし、中国の対外投資は、投資で被投資国の企業を買収→開かれた外国市場内で先端技術をごっそり頂戴し→閉鎖された中国市場内で莫大な利益を上げる。やがて、「合法的」に頂戴した先端技術が生み出した中国の閉鎖市場における莫大な利益を元手に、巨大国営企業を設立する。
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中国は、買収した企業の技術を利用し、巨大企業を作りだし、諸外国の企業と競合関係になるが、中国政府系企業は政府の後押し(為替操作)で勝ち進み、競合企業は価格でも圧倒され、疲弊していく。
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この繰り返しが、一帯一路の実態なのだと気が付き始めたドイツやEU諸国はようやく企業買収に歯止めをかけ始めたが、この発端を位置づけたのがドイツ・メルケル首相である。トランプ大統領がメルケル首相を極端に嫌うのも、先端技術の垂れ流しは中国のドイツ企業へのM&Aだと踏んでいるからだ。
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トランプがEUやNATOを嫌うのは、裏には各種の政治的背景があるからだ。さて、EUは強固になるか、崩壊するか。中国は、今でも手を出すチャンスを待っている。
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