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対米交渉に不安の拍手・指導部に不満も!
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中国の年に一度の政治イベントである全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が3月5日開幕した。ちょうど1年前、国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正を全人代で実現した習近平国家主席は「1強体制」を盤石にしたかに見えたが、建国70周年の今年は国内経済の減速と米中貿易摩擦という「内憂外患」に見舞われている。危機感を募らせる習氏は共産党・政府内に繰り返し檄を飛ばすが、有効な出口は見えてこない。
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「自らの合法的な権益は断固として守り抜く」。李克強首相が5日の政府活動報告で、米中貿易協議への対処方針を明言すると、約3000人の出席者からの拍手はそれまでと違って力のないものに変わった。トランプ米政権に譲歩を重ねる現状への不安を象徴するかのようだ。
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中国経済は2018年の成長率が6.6%と28年ぶりの低い伸びにとどまったが、中国人民大学の向松祚教授は昨年12月の講演で、実際の成長率は1%台だとする「内部報告」を披露した。
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米中貿易摩擦に伴う受注減や消費者心理の悪化が足を引っ張ったことは間違いないが、それだけでは説明できない。「市場原理を軽視し、民営企業にも国の関与を強めた習指導部の経済失策が原因」(経済学者)との見方は根強い。李首相も報告で「企業家が安心して経営できるようにしなければならない」と懸念解消に努めた。
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民間経済の減速は、雇用環境の悪化に直結する。雇用悪化による社会不安は中国当局が最も恐れるシナリオだけに、李首相は「雇用対策に全力を挙げる」と力を込めた。
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壇上中央で終始笑顔を見せなかった習主席は年明け以降、中央、地方の幹部に「重大リスクの防止・抑制」を重ねて指示。1月21日の演説では「『黒い白鳥』(想定外の出来事)を警戒するだけでなく、『灰色のサイ』(存在するのに見過ごされているリスク)も防がなければならない」と、金融界の用語を使って危機管理の必要性を訴えた。
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中国にとって「灰色のサイ」とは、企業や地方政府が抱える過剰債務を指すとの見方が一般的。習演説の直後には、北京交通大学の趙堅教授が「高速鉄道を『灰色のサイ』にするな」と題する寄稿で、景気てこ入れのため採算無視の鉄道建設を進める政府を批判した。過剰債務をめぐっては、朱鎔基元首相の息子の朱雲来・前中国国際金融最高経営責任者(CEO)も昨年11月の講演で、不良債権の抜本的な処理を提言。「中国経済は身軽になれば『L字』ではなく『V字』回復できる」と強調した。「L字回復」は、習氏の経済ブレーンで、対米交渉も担う劉鶴副首相の持論だ。
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朱氏を含め多くの政権批判の矛先は今、劉副首相に向かう。保守的な左派は対米交渉での弱腰を批判し、右派は構造改革の先送りを批判する。党内の左右両派が劉副首相を身代わりに習氏への不満を示している格好だ。
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中国には、9の付く年には大きな変化が起きることを意味する「逢九必変」という言葉がある。天安門事件(1989年)や新疆ウイグル自治区での大規模暴動(2009年)などに続く激変はあるのか、習指導部の警戒が続く。
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