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1000万円収賄疑い!
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自ら交渉「2回でまとまった」!
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静岡県伊東市の前市長が市内の建設会社からの土地購入をめぐり、便宜を図る見返りに現金を授受したとして、警視庁捜査2課は6月16日、収賄容疑で前市長、佃弘巳容疑者(71)を、贈賄容疑で建設会社「東和開発」(同市)役員、森圭司郎容疑者(47)を逮捕。受け渡しの仲介をしたとして収賄幇助容疑で、川崎市の会社員、稲葉寛容疑者(50)も逮捕した。行政トップが自身の利益のために土地を不正取得した疑いもあり、捜査2課が解明を進める。
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逮捕容疑は、佃容疑者が市長だった平成27年8~9月、東和開発が持つ「伊東マンダリン岡本ホテル」跡地(約4030㎡)を市が買い取るなど便宜を図った見返りに、森容疑者から稲葉容疑者を介し、謝礼として2回にわたって計約1000万円を受け取ったとしている。
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捜査2課は認否を明らかにしていない。
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関係者によると、土地は22年にホテルが経営破綻した後、競売で建設会社が約4800万円で取得していた。
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市は市議会などに「市生涯学習センターの移転候補地」などと購入理由を説明。27年に2億500万円で購入し、今年5月には、図書館や文化ホールを建設する素案を作成している。
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佃容疑者は昭和58年に伊東市議に当選した後、県議を経て、平成17~29年に市長を務めた。29年5月の市長選では不出馬を表明。同年8月~今年3月まで市の特別顧問を務めた。
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佃容疑者は逮捕前の取材に「知人に貸した金を返してもらっただけ」と疑惑を否定していた。土地取引は佃容疑者が主導し、議会には「生涯学習施設を建設する」と説明していた。しかし計画は進まず、現在は更地のまま市の臨時駐車場として使われている。
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佃容疑者は今月13日の取材に「10年ほど前に(稲葉容疑者に)約2000万円貸した。(稲葉容疑者が)土地取引で仲介役を務め、東和開発からコンサルタント料を得たので1000万円の返済を受けた」などと現金の授受を認めたが、便宜を図った見返りだったことは否定していた。
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前市長(71)は、静岡新聞社の今年3月の取材に対し、同社と親密な関係にあることを認め、売買交渉について「(自ら)会社に行って話を進めた。2回目でまとまった」と述べた。
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関係者によると、容疑者は贈賄容疑で逮捕された社長(47)と自ら売買交渉していた。容疑者は建設会社との関係について「社長が自分と同じ伊東市宇佐美の出身。社長が子どもの頃から知っているから、すぐに話が通る」などと説明した。
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建設会社が運営するボクシングジム関連の会員制交流サイト(SNS)上で、容疑者がジム関係者と一緒に写った写真が公開されている時期もあった。
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前伊東市長は、市長在任12年間で、ひっ迫していた市の財政を自らのリーダシップで再建するなど「剛腕の改革者」の一面を見せた一方、特定の業者との癒着に関する「黒いうわさ」も長年にわたり、地元でささやかれてきた。
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ある建設業経営者は「宴席で市内の業者が『(容疑者に)便宜を図ってもらった』と平気で言っていた」と明かす。別の土木業者幹部も「(容疑者の)鶴の一声で(公共事業の)入札から外されたという話も聞く。市政に私情を挟みすぎていた」と憤る。
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市の土地取得に関しても、幅広い人脈を駆使して自ら交渉に乗り出すことは多かった。市関係者は「職員で難航した交渉をすぐにまとめてくることが何度もあった」と話す。ただ、交渉経緯が職員に伝えられることはなく、「政治は裏で動く」と公言してはばからなかった。ある市幹部は「(市役所の)外で何をしているか分からない。今回の事件もあり得る話だとは思う」と声を潜めた。
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16日に収賄容疑で逮捕された前伊東市長(71)と贈賄容疑で逮捕された建設会社社長(47)の間で売買交渉が行われたホテル跡地は、地元では“いわく付きの土地”とされてきた。かつて建てられていたホテルは2010年、運営会社が会員制温泉リゾートクラブの預託金名目で現金をだまし取った巨額詐欺事件の舞台になり、その後破綻した。13年5月には不審火も発生している。
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「公共工事の発注でも自ら業者との価格交渉にあたって、『ここは300万円泣いてくれ』とか、平気で値切る人だった。トップダウンで即断即決。行動力もある人だった」。佃容疑者を知る人は振り返る。
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佃容疑者は市議会議長だった父の後を継ぎ、36歳で市議に初当選した。酒は飲まないが、能弁で気さくな人柄。市議と県議を通算6期務める中で、補助金を握る国や県へのパイプを張り巡らせたのだろう。支援者には土建業者が多く集まった。
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市長に就任すると、「親しい業者にばかり発注している」との悪評が立つようになる。土建業者との宴席で「みなさんのために補正予算を組みましたから、うまく分けてください」とあいさつしたこともあるという。一方で市長選で対立候補の支援にまわった業者を罵倒するなど、「アメとムチ」を巧みに使い分けた。
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「まるで田中角栄のようだ」。人口約7万人の地方都市で、佃容疑者は元首相に重ねられるほどの権勢を誇った。
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ある市職員は佃容疑者について「典型的なトップダウン型」と振り返り、「市有地の売買に関して強引に話を進めることは少なくなかった」と指摘する。
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こうした点は市役所内でも知られており、ホテル跡地の購入の際には「また何か『買い物』をしたのか」との声が上がったという。
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