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赤字路線の廃止が今後の課題!
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10月25日に東京証券取引所に上場したJR九州。国が保有してきた株式のうち1億6000万株を1株2600円で売り出し、初値は3100円となり、公開価格の2600円を2割近く上回った。4960億円を市場から吸収したのである。
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JR九州(旧国鉄)の実質的な収入源は鉄道ではなく、駅ビルや不動産だ。
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売上高構成比は運輸サービス事業が5割弱で、不動産事業が2割弱にとどまる。利益ベースでは4割ずつを占めており、福岡中心に拡げている駅前開発等が収益を伸ばし、ドラッグストアや外食チェーン等の非鉄道事業が底支えしている。
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農業・フードサービス事業では「TKG(たまごかけごはん)専門店」を展開。九州ブランドの特産品(卵やコメ)を使い、東京都内でも提供している。
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国の財産を売却したのだから、「国の借金」へ充当されるのかと思っていたが、国土交通省が所管する「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」に入るのだという。実は、JR九州や四国、北海道は経営基盤が弱く、上場の想定もなかったので、機構が株式を保有する事になった。
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4960億円は旧国鉄社員への年金や恩給、作業災害補償などのほか、JR北海道やJR四国、JR貨物の経営支援に使われるという。国交省のポケットに入ってしまったわけである。
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JR九州の上場にはこれまで障害があった。旧国鉄分割・民営化の際、経営支援策として交付された経営安定基金の存在だ。その額は3877億円、JR九州の資産総額の3分の1を占める。同社の経常利益の5割弱を稼ぎ出す重要な収益源だった。
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5215億円の減損処理を断行。
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経営安定基金は国の補助金。上場の際には返還すべきという声もあったが、結局は返還せずに取り崩すということで決着。2016年3月期に取り崩した基金は鉄道事業の収益改善に使われることになった。
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取り崩した基金の使い道として、まず行なわれたのが新幹線貸付料の一括返済だ。JR九州は新幹線の設備を鉄道・運輸機構から借りており、貸付料は年102億円。40年まで支払いが続く。取り崩した基金を使って将来の貸付料を前払いした。借入金の一部返済も行なっているため利払い負担も減る。
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JR九州は、過去の膿を一気に吐き出した。2016年3月期に5215億円という巨額の減損損失を計上したのだ。大きかったのが鉄道事業の固定資産の減損。将来にわたって行なわれる鉄道の構築物や機械設備の減価償却を先取りしたようなもので、今後の償却負担が軽くなる効果がある。新幹線貸付料の支払いがなくなり、減価償却費の負担が減った。こうした施策により鉄道事業の収支は大きく改善し、利益の出る体質に転じたのだ。
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JR九州の多角化事業が利益の稼ぎ頭だった。鉄道事業が黒字化することで、株式市場でも投資対象となったといえるのだが、優良会社になったと考えるのは早い。九州は鉄道よりも自動車やバスの利用頻度が高く、地方特有の沿線人口の減少にも直面している。首都圏を基盤に持つJR東日本や東海道・山陽新幹線というドル箱を抱えるJR東海、JR西日本と比べると、JR九州の鉄道事業の基盤は脆弱である。
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手っ取り早く採算を改善する方法がある。赤字になっているローカル路線を廃止することが収益改善だが、JR会社法改正案審議の場で青柳俊彦社長は「検討していない」と明言。JR北海道は経営立て直しに向けて、不採算路線の廃止を提案しているし、JR西日本も三江線の廃止を検討しているが、JR九州は路線廃止に頼らない鉄道事業の採算改善を目指す。ドル箱を持たないJR九州。これからの株価比較は西鉄となりそうだ。
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売上高はJR九州が3788億円、西鉄が3602億円とほぼ互角。利益面ではJR九州が382億円、西鉄が97億円で今のところJR九州がリードしている。
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西鉄は、福岡県が東京に持つ英国大使館隣接地でのホテル経営、京都では鴨川と御池通の角地でホテル建設と関東、関西へ収益ベースを広げている。JR九州が赤字ローカル線を始末しなければ株主から見放される時期が来るかもしれない。
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