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世界が認めている「安全ブランド・円」!
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2000年代前半まで遡ると、日本の対外純資産と言えば半分以上が証券投資だった。そう考えると「世界最大の対外債権国」というステータスこそ27年間不変だが、その中身はかなり変わってきており、具体的には「証券投資から企業買収へ」という構造変化が起きていることが分かる。
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こうした構造変化の背景には世界的な低金利傾向を受けて「証券投資に勤しむよりも事業機会を拡げるべく企業買収に注力した方が高い収益率を実現できる」という現実があるのだと推測される。
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国際収支統計を元に、直接投資の収益率は「直接投資収益(受取)÷対外直接投資残高」で、証券投資の収益率は「証券投資収益(受取)÷対外証券投資残高」で試算したものを過去10年間について平均した場合、証券投資の約+4.2%に対し直接投資は約+6.7%であった。
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日本の対外債権構造は「証券投資から企業買収へ」そして「欧米からアジアへ」という変化を経験しつつあるのである。
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巨大な対外純資産の存在は為替の観点から見ると、「いざとなれば売る外貨をたくさん持っている」ということになり、それゆえに「通貨価値が大暴落するようなことはない」という理解につながる。日本(円)はその評価軸に照らせば「危ないことが起きる→円に逃げる」というアクションが取られやすい現状があると考えられる。
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対外純資産の全てが直ぐに換金できるものばかりではないのだが、理論的には概ね筋が通っている話でもある。少なくとも「危なくなったら対外債務国より対外債権国」は議論の余地のない鉄則であり、これに当てはまらないのは基軸通貨国のアメリカくらいのものである(アメリカは世界最大の対外債務国)。
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2017年末の対外純資産残高について主要国比較をすると、日本に次いで大きいのがドイツの261兆円1848億円、中国の204兆8135億円であった。
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上位3か国の顔ぶれは例年通りだが、ドイツと中国の差は2015にかけてほぼ消滅し、2016年もほぼ同じとなった後、2017年はかなり開いている。さらに日本との比較で見ても、2014年以降、ドイツの対外純資産残高は日本に徐々に、しかし確実に迫っている。
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ドイツは「永遠の割安通貨」を背景に世界最大の経常黒字を荒稼ぎしており、対外純資産は毎年早いペースで積み上がっている。もはや、経常収支に基づく「フロー」は圧倒的にドイツが日本よりも大きいため、仮に為替レートが一定ならば、自ずと「ストック」である両国の対外純資産の差も縮まっていくことになる。
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円が安全資産としての需要を引きつける理由が「世界最大の対外純資産国」というステータスにあるのだとすれば、ドイツが保有する通貨も本来ならば同種の需要を引きつける筋合いにある。本来、そうした文脈に即して「安全資産としてのユーロ買い」が出ていても不思議ではないのだ。しかし、現実はそうなっていない。
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ユーロはドイツもイタリアも含めてユーロなのであり、ドイツのファンダメンタルズに相応しいほど通貨が強くなることは100%ない。その上、ドイツは周縁国に対して身銭を切ることを強く拒む。ドイツがユーロにフリーライド(タダ乗り)していると揶揄される一面である。遅かれ早かれドイツは「世界最大の対外純資産国でありながら、通貨は常に割安」という状況に至ることが予想される。
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幸いにも、日本は経常収支が黒字であり、投資した海外企業や金融資産から多額の利息収入や配当金収入を企業や個人は受け取っている。それらの外貨建ての収入は、金融市場でリスク回避姿勢が起きていようといまいと経常的に発生するものであり、常に一定規模の外貨売り&円買いの資金フローが存在している。
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楽観的過ぎるかもしれないが、日本円はもう暫くは安全通貨としての地位を維持するものと筆者は考えている。
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