無料カウンター    2016.09.19.
   中国の不良債権:公式統計10倍・190兆円!
 
  中国の不良債権の拡大に警鐘を鳴らすデータが、ここ最近、相次いで公表されている。内 閣府が8月まとめた報告書「世界経済の潮流」は、不良債権に計上される恐れのある銀行の 要注意債権の残高が、2年で倍増したと指摘。民間シンクタンク大手の日本総合研究所が発 表した中国の推定不良債権が、公式統計の10倍に上るという試算リポートは、さらに大き な衝撃を市場関係者らに与えた。中国に待ち受けるのは「金融危機」か、はたまた大胆な構 造改革路線による不良債権問題の解決か。政権内部では経済政策の路線対立も根深く、先行 きはまったく読めない状況だ。
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 「(中国の)景気が減速する中、要注意債権の不良債権化に注意が必要だ」。内閣府は 「世界経済の潮流」の中で、こう警鐘を鳴らした。
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 中国では、債権を「正常」「関注」「次級」「可疑」「損失」の5つに分類して、最後 の3つを、不良債権としている。
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 内閣府が要注意債権と呼ぶのは、不良債権のワンランク前の「関注」債権で、2016 年4~6月期の残高は3兆2000億元(約48兆円)と、2年前の約2倍にまで増えたと いう。
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 また内閣府は報告書の中で、今年に入り、中国の国有企業の固定資産投資が急増してい るとも指摘。リーマン・ショックに対する経済対策を機に悪化した、過剰設備問題のリスク に対する警戒も呼びかけた。
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 一方、日本総研がまとめたのは、中国の金融機関が抱える潜在的な不良債権の残高が、 15年末で12兆5000億元(約190兆円)に達するとのリポートだ。中国政府は、同 時点での不良債権残高を1兆2744億元(約19兆円)としており、試算結果は、ほぼ1 0倍に達する規模だ。
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 同社は、広義の営業キャッシュフローが支払い利息を下回っている企業の借入金を不良 債権と定義し、中国の上場企業2327社の15年の財務データを分析。このうち223社 が、「潜在的に危険な企業」にあたるとした。借入金ベースの比率では全体の8.6%に上 る。
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 この比率を、公式統計に載らない「シャドーバンキング(影の銀行)」による融資や、非上場企業向けの融資を含んだ中国全体の貸出額にあてはめて、不良債権残高を推計したと いう。
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 リポートをまとめた関辰一副主任研究員は「不良債権の認定基準が甘いことなどを踏ま えると、実際の不良債権は公式統計を大きく上回る規模と考えられる」と指摘。
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 不良債権が膨らんだ理由について、「中国経済の高成長の終焉にともない、製造業や採 掘業、不動産業で、過剰債務・過剰投資の問題が深刻化し、不良債権比率が上昇している」 としている。
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 こうした状況は、今後、中国経済にどのような影響を与えるのだろうか。
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 最悪のシナリオは、経営を圧迫された金融機関の破綻を機に、金融危機が引き起こされ ることだ。バブル崩壊後の日本でも1990年代後半、金融機関の破綻が相次ぎ、貸し渋り や貸しはがしが起きたことで企業の破綻が相次いだ。中国でも、同様の事態が起き、中国の 景気が大きく後退する恐れがある。
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 ただ、日本という“反面教師”もいるだけに、中国は同じ道をたどらないのでは、と指 摘する声も多い。その場合、「構造改革」によって不良債権問題を解決する道が模索される 可能性がある。
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 「構造改革」の場合、政府は金融機関に公的資金を投入する一方、金融機関はリストラ を迫られ、景気は一時的に後退することになる。中国の政治体制は日本と違うため、日本で は遅れた金融機関への公的資金投入が、スピーディーに進むこともありうる。
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 ただ、政府内には、構造改革路線を重視する習近平政権指導部と、景気刺激を重んじて 、高度経済成長路線への回帰を求める江沢民元国家主席ら「守旧派」との間の対立があると される。この対立が根深ければ、構造改革路線は、そう簡単にはいかない。
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 結局、金融機関の寿命をダラダラと延ばしつつ、景気回復で不良債権問題の解決を待つ 「先延ばし策」がとられるかもしれないが、中国の景気減速がささやかれる中、手をこまね くだけなら、傷口はますます広がりかねない。
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 14億人の人口を抱え、世界最大の消費市場に膨張した中国の経済が世界経済に及ぼす 影響は巨大だ。日本にとっても、進出企業の多さや対中輸出の巨額さを踏まえると、インパ クトはとてつもなく大きい。
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 世界経済にとって、中国の不良債権問題は、いつ爆発する分からない「時限爆弾」のよ うなものだといえそうだ。
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週刊ダイヤモンド 9月10日号より

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